社交不安障害・過度のあがり症

社交不安障害・あがり症・書痙

 社交不安障害(社会不安障害)はDSM-5※1の診断基準で、「他者の注視を浴びる可能性のある1つ以上の社交場面に対する、著しい恐怖または不安。」と定義されています。あがり症や書痙もDSM-5に照らすと社交不安障害の診断に当てはまることがあります。

※1.DSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5):アメリカ精神医学会の診断基準

社交不安障害の簡易診断

簡易な診断方法で、下記の4項目全てに該当する場合は社交不安障害の可能性があります。

  1. この1ヶ月間に、人から見られたり、注目を浴びたりすることに恐怖や戸惑いを感じたり、恥をかきそうな状況を恐れたりしましたか?
    (これは人前で話す、人前で食事をする、誰かに見られているところで字を書くなど状況に対す恐怖を指します。)
  2. その恐怖は、自分でも恐がり過ぎているとか、常軌を逸していると感じていますか?
  3. その状況は、わざわざ避けたり、じっと我慢しなければならないほど怖いものですか?
  4. その恐怖により、あなたの通常の仕事や社会生活が妨げられていたり、それにより著しい苦痛を感じていますか?

 

社交不安障害の主な症状

・不安や恐怖が出現したり、避けようとする状況
人前で話しをする
注目を浴びる
人前で字を書く(書痙)
人と目を合わせたりする
人前での飲食

・身体症状
手・足の震え、声の震え
心臓がドキドキする
赤面
発汗
お腹の不快感・下痢

具体的なあがり症・社交不安障害の症状

・会議、発表(プレゼンテーション)、朝礼、面接、保護者会、申し送りなどの場面で、
手が震える、マイク、原稿やポインターを持つ手が震える、
立っていると膝がガクガク震える、
声が震える、上ずる、
頭の中が真っ白になり、言いたいことが上手く言えない
・書痙:人前で文字を書く際に、手が震える
(結婚式やお葬式での記帳、契約書、入会登録などの記入)
・お茶を出すときに手が震える
・周囲に人がいると、マウスやキーボードを操作する手が震える
・電話の際、周囲に人がいると、受話器を持つ手が震える、声が震える
・会食や宴会でお酒を注いだり、注がれたりするときに手が震える
・医師、歯科医師、看護師、獣医師の方で注射や処置をする手が震える
・楽器を演奏する手が震える

社交不安障害とうつ病

 社交不安障害の方の約70%にうつ病が併存すると言われています。また、社交不安障害がうつ病に併存する場合、うつ病の経過に悪影響を及ぼすと言われています。

薬物治療

・β(ベータ)ブロッカー
・ベンゾジアゼピン系抗不安薬
・セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬 (SSRI)

 一般的に抗不安薬のみが処方されることが多いのですが、動悸や振るえなどの症状が残り効果が不十分な方も多くおられます。このため、当院では動悸や振るえに効果的なβ(ベータ)ブロッカーを処方致します。β(ベータ)ブロッカーのみで、症状が改善される方もおられます。ベンゾジアゼピン系抗不安は、依存性や耐性(飲み続けると薬の効果が弱くなること)の結果、薬を飲む量が増えてしまうなどの問題があるため必要最小限の使用に留めます。
社交不安障害の症状が毎日あるような方は、SSRIというタイプの抗うつ薬が適している場合もあります。
アサーショントレーニング、森田療法、自立訓練療法、漢方薬などで十分な効果が得られなかった方でも、薬物療法が非常に効果的な方が多くおられます。

βブロッカーの効果

 社交不安障害・あがり症の症状には、動悸(心臓がドキドキする)・頻脈、声や体の震えがあります。また、書痙では人前で時を書く際、ペンなどを持つ手が震えます。緊張や興奮をすると体内で、アドレナリンが分泌され、交感神経のα(アルファ)受容体とβ(ベータ)受容体に結合し、動悸や震えなどの症状が出現します。ベータブロッカー(交感神経ベータ受容体遮断薬)は交感神経のベータ受容体を遮断(ブロック)し、動悸や震えなどの症状を軽減させます。動悸や震えは不安感や緊張感を強めますので、ベータブロッカーで動悸や震えを軽減させることにより、不安感や緊張感の軽減につながります。

 ベータブロッカーには血圧を下げる効果もあり、降圧薬に分類されていますが、心臓の拍動を遅くする作用もあるため、頻脈(脈が速くなること)の治療にも使用されています。この心臓の拍動を緩める作用が、社交不安障害やあがり症での動悸に対しても効果があります。更に、ある種のベータブロッカーは、精神的な原因により心臓に関する症状が出現する心臓神経症という病気にも健康保険での適応が認められています。更に、別の種類のベータブロッカーは、人前でなくても動作時に手が震えるという本態性振戦という病気にも使用され健康保険上の適応も認められています。

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